DVD1巻特典、その後


AngelBeats!/日音



「じゃあ今回の収録はお仕舞いね」
「「ありがとうございましたー」」
ゆりの一言でSSSのみんなは片付けを始める。
日向はというと音無の隣で落ち込んでいた。
今回の収録、BLだとかなんとか言って無理矢理演じた内容があれだ。
キスシーンも、振りだけど演じた。
別に嫌ではなかった。突っ込みどころはたくさんあったけど。
音無の方をちらと見やる。音無はいつもと同じ表情でそこに立っていた。
嫌じゃなかったのだろうか?
…………期待してしまう。
そう思っていると急に音無は日向の方を向いた。
「なあ日向、この台本…」
「言うな、もう何も言うな」
思わず日向は音無の言葉を遮ると顔を背けた。みるみる顔が熱くなっていく。
今台本のことをきかれても、まともに答えられる気がしない。
そのまま音無の方を向かないようにする。
「なんだよそれ……」
音無のため息がきこえた。呆れているのだろうか。
「…………なに照れてんだよ?」
「ばっ、照れてねえし!」
図星だ。
台本のことをきかれたものだから音無とのキスを思い出してしまっていた。
本当にキス出来たら、どんな味がしたのだろうか。
音無は二度目のため息をついていた。
「なに考えてるか知らないけど、もうみんな帰っちまったぜ」
音無の指差す方向には人のいなくなった静かな撮影場があった。
さっきまでの騒ぎが嘘のようだ。
「わかってっけどよ……、なら音無、先帰れ」
「日向が帰ればいいだろ?」
「いーや、俺はまだ帰らない」
つい意地になってしまった。
……こうなったら絶対音無が帰るまで帰らないぞ。
「おい、日向」
悶々と考えているうちにいつの間にか音無が目の前に移動していた。
ばっちり目が合ってしまった。
慌てて逃げようと身を反らしたが、音無に顔を掴まれそれは叶わない。
今はそっとしておいて欲しかった。
そんな顔近いのは反則。だってまじで音無いい匂いなんだよ。
「…………なんだよ、音無」
さとられないように声をおし殺す。
自然と不機嫌そうな声音になったがまあ間違ってはいない。
「理由、教えてもらうからな」
「理由?」
わかっているのにとぼけたふりをする。
「なんで俺と目を合わさなかったのか」
やっぱりそれね、と日向は明後日の方を向く。
本音を言っていいものかどうか、凄い悩むな。
「うん、まあ…な。これにはふかーい訳があってだな」
「言い訳はいいから、理由だけでも教えてくれ」
音無の真剣な視線とぶつかった。
それに照れてしまい再び下を向く。
もう言ってしまおうか。
俺がお前を……
日向は意を決して勢いよく音無の方を向いた。
「それは、あのよ…今回の台本が理由なんだ」
意を決した割には遠回しな言い方となってしまった。
流石にストレート過ぎるのははっきり言って無理である。
「台本?あれがどうしたんだ」
「音無も不思議に思わなかったか?あの、その……俺たちのBLシーン」
語尾は小さくなってしまった。
あああれかと言っているってことは音無はちゃんと理解してくれたようだ。
「あれは日向が落ち込んだり、俺と目が合わせられなくなるほどまずい内容なのか?」
「いや、まずくはないけどな」
なんていうかな、と日向は考え込む。
「……お前に申し訳なかったからだよ」
「俺に?」
「好きでもないやつにキスされたら、誰だって嫌だろ?」
「キスって言っても振りじゃん」
「振りでもだよ」
俺は凄いドキドキした。
正直嬉しかったし、このまま本当に……なんて考えたりもした。
馬鹿だよな、親友なんて言ってるやつにそんな感情抱くなんて。
「振りでもやっぱ嫌、だろ?」
だからここは我慢しないと。
音無が嫌って言ったら今度からは不用意に近付かないようにしよう。
まあ当然嫌って言うよな。
音無は考え込むようにしてゆっくり口を開いた。
「別に、嫌ではなかったかな」
「へっ!?」
今、なんて……? 「嫌か嫌じゃないかの二択だったら、嫌じゃない」
これは、本当に期待してもいいのか?
「ああそうだ」
そこで音無は思い出したように付け加える。
「日向、あの時ゆりが言ったことって本当なのか?」
「あの時?」
思い出せない。
今回のゆりっぺ、突拍子もないことばっか言うもんだからいちいち覚えてられなかったし。
「『こういう状況じゃなかったらする気満々なのね』とかなんとか言ってたの」
「…………あ゛」
思い出した。
日向の顔が一気に赤くなった。
「あ、あれはただ否定するタイミングを逃したわけであって断じてそういうのじゃ……、あ、そういうのってなんだ、いや別に……」
「で、どうなんだ?」
音無は日向に詰め寄る。
「………………」
ああもう、ここまで来たんだから後は勢いに任せてやる。
日向はもう一歩踏み込んだ音無に顔を寄せ唇にキスをした。
「…………これが答えだよ」
今凄い顔赤いんだろうなと日向は火照った頬を感じて思う。
音無は呆然と日向の顔を凝視する。
そんなに見られると、照れるな。
「やっぱお前って、これだったのか?」
…………キスされて最初に言うことがそれかよ。
「いや、そういうわけじゃなくて。なんだろ、音無とならいいかなって思えてさ」
音無はキスされたというのに冷静だな。
俺はもう心臓鳴りすぎて死にそう。
「…………そっか」
「……なあ音無、なんでお前そんなに冷静なんだよ」
男にキスされたんだぞ。普通はもっと取り乱したりするもんだろ。
「まあそうなんだろうけど……、嫌じゃなかったし」
音無は照れたように頬を染める。
「なんかよく言えないけど、日向にキスされて嬉しかったっていうか」
それは音無も俺に気があるってことでいいんだろうか?
キスが先になっちまったけど、言ってもいいよな。
「音無」
「ん?」
「好きだぜ」
ついに言っちまったなと内心思いながらも音無の目を見る。
今まで冷静だった音無が今は顔を真っ赤にさせていた。
さっきの日向と同じくらいに。
「…………そんなことよく照れずに言えるよな」
「今も凄い恥ずかしいよ」
だけど今が告白するタイミングかなって思ったからさ。
男らしいとこみせないと。
日向は音無の髪にそっと触れた。
「なあ音無、キスしていいか?」
「……ああ」
合意をもらい、日向は音無の顔を引き寄せて唇を合わせた。
「んっ」
リップオンを鳴らして名残惜しそうに離れる。
「なあ、もっといいか…?」
「焦らすなよ、もっと欲しい」
二人で啄むようなキスを交わし、どちらからともなく口を開く。
日向はその隙間に舌を入れた。
「んっ、はっ………ぁ」
チュクッと鳴る音が卑猥に聴こえる。
重なった唇から吐息が漏れた。
「ふっ……ひ、なた…くるし……っ」
音無はあいた隙間から懸命に息を吸い込む。
日向も苦しかったが、それよりも離れてしまうことが嫌だった。
まだ、今はこのままでいたい。
「……音無、…好き」
「ん…………おれ、も……っ」
流石に限界になって口を離す。
息がかかる距離でお互い見つめ合う。
「これからもよろしくな」
「こちらこそ」
二人で笑い合う。
幸せなこの時間が永遠であることを願って。


「日向、今度からはちゃんと演じられそうだな!」
「またこんなのがあったらあったで困るけど……」






2010/08/10