お前しかいらない


シズデリ



朝からあいつの姿が見えねえ……
静雄は自分のところに居候しているデリックの姿が見えないことが気になった。
朝起きるといつもそこにある温かみがなく、隣を見ると案の定もぬけの殻で。台所だろうかと覗くラップがかけられたチャーハンが置いてあるだけだった。
自分と同じ顔をしているデリックを1人外を歩かせるのは不安で仕方がない。自分の池袋での評判は自覚している方だ。もしものことがあるかもしれない。
時間がすぎるのが遅く感じる。時計をチラチラ見ながら、デリックの帰りを待つしかなかった。
こんなに大事に思うなんて、初めは思ってもみなかった。自分と同じ顔、しかも臨也からの回し者ときいただけで嫌悪感を露わにしていた。
でも一緒に過ごすうちに自分との違いを見つけ、そこに惹かれていった。
今では大切な存在、なくてはならない存在だ。
外は日が暮れ、太陽が沈みかけるという時に玄関の扉が開く音がした。
「デリック、てめえどこ行ってたん……っ!?」
急いで玄関へと向かう。
そこにいたのは帰りをずっと待っていたデリック。しかし、その体はぼろぼろで服もいたるところが破れていた。
「ただいま、静雄」
「お前、その傷どうした!?」
そう言うとデリックは困ったような辛そうな、なんとも言えない顔をした。
「言え!誰にやられた?」
乱暴に肩を掴むとデリックは痛みに顔を歪めた。すまんと手を外し、静雄はそわそわとデリックの答えを待つ。
「……マスターのところへ行った帰り、静雄に間違えられたんだ」
大したことないよとデリックは笑う。静雄は自分のせいでデリックに怪我をさせたという事実にショックを受けていた。
デリックの手を引いて、すぐに部屋へ連れて行く。
「今すぐ手当してやるから服脱いどけ」
救急箱を取り出し、手際良く手当てをしていく。
「慣れてるね」
「よく怪我するからな」
静雄は怪我の治りが早いという理由からか自分には適当な処置しかしたことがない。けれどデリックは違う。静雄のような怪力は持っているが静雄ほど頑丈には出来ていない。
静雄は丁寧に丁寧に包帯を巻いていく。
「お前は俺より治りが遅いんだ、気をつけろよ」
だから外へなんて行かせたくなかった。出来ることなら閉じ込めて自分以外の人には会わせたくない。
デリックはずっと俺の傍にいるだけでいいんだ。
「ほら、終わったぞ」
「ありがとな、静雄」
「礼はいい」
静雄は破れた服を片付け、自分のカッターシャツをデリックにかけた。
「取りあえずそれ着とけ」
「……ありがと」
袖を通し、ふわりと笑うデリックに目を奪われる。とても綺麗な笑顔だと思った。
「静雄と俺、体格も全く同じかと思ったらそうでもないんだな」
ほらとデリックは袖を見せてきた。
「静雄の方が少しおっきいのな」
新しい発見をした子どものようにキラキラとした目をして言った。
静雄も釣られて微笑む。
「そうみたいだな」
そっとデリックの頭を撫でてやる。するとデリックは猫のように擦り寄ってきた。
そのまま抱き寄せる。傷を刺激しないように、そっとだ。
「今日は疲れただろ。もう寝ろ、な」
「……じゃあこのまま、寝ていいか?」
静雄の傍がいいとデリックは静雄の服の裾を握りしめる。
「ああ、いいぜ」
そう言うと安心したようにデリックは目を閉じた。静雄はデリックが楽になるように体勢を変えてやる。
「お休み、デリック」
静雄はデリックの額にそっと口付けた。






2011/04/25